【前編】「階段」の設計で外せない3つの視点

2019年12月25日

人口減を背景に、着工件数が減る日本の住宅事情。平成30年は前年比2.3%減である一方、一戸建ての建売住宅だけは同3.0%増と増加傾向にあります(国土交通省調べ)。新築住宅の設計において、その家に住まう人への配慮が顕著に合わられるものの1つが「階段」です。高齢化や、デザイナーズ物件のニーズの高まりを背景に、今、階段はどうあるべきなのでしょうか。東集新社長の永井と25年目のベテラン東京東支店店長の廣神が、階段のあるべき姿を探ります。

(構成・写真 渡邉奈月<ICPコンサルティング>)

クレストホールディングス株式会社 兼 株式会社東集 代表取締役社長 永井 俊輔(写真左)

早稲田大学商学部卒。株式会社ジャフコでバイアウト投資に携わった後、父親が経営する株式会社クレストへ入社。CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して4年間で売上を2倍に拡大しサイン&ディスプレイ業界大手に。2016年より同社代表取締役社長。2019年8月ホールディングス化に伴い、クレストホールディングス株式会社 代表取締役社長就任、同年9月東集を完全子会社化し、東集代表取締役社長に就任。

株式会社東集 東京東営業部 部長 廣神 治(写真右)

平成6年東集入社。新木場店の研修を経て、営業として春日部営業所配属。建設現場でお客様や大工さんと打ち合わせながら家づくりにどっぷりと携わる。平成15年千葉店店長に就任。新木場店統合に伴い、第一チーム責任者兼営業。現、東京東支店店長。メンバーと東京都や千葉県エリアを中心に活動中。

階段の歴史

永井:今日は「階段」をテーマに対談を進めたいと思います。「階段の歴史」、「階段を作るうえでのポイント」、「私たちが考える階段の未来」について、階段にどう魂を向けて関わっていくか、しっかりお話ししてまいりましょう。まず「階段の歴史」についてですが、木材卸売り会社から見る階段の歴史というのは、どのように変化してきたのでしょうか?

廣神:私たちが子供の頃は「階段」というと、上ったり下りたりするだけの道具でした。私の実家も平面の家でしたが、「急こう配で狭くて暗い」というイメージに何も疑問を持ちません。お金持ちの子の家に遊びに行き、玄関から入ると、ゴツい階段が登場してきたものでした。歴史的な変化があるとすれば、「機能」としての階段から、格好良さやデザインを象徴するもののひとつになってきたことでしょうか。今はあらゆるものにそのような傾向があります。たとえば携帯電話も格好いいほうが良いし、お皿もご飯が載っていればなんでも良いというわけではない。階段は機能の上にセンスが求められるようになったのはかなり後でした。

廣神:施主様も世代が代わり「階段も好きな形にしていいんだ」「豪華な階段は特別な存在ではない。私たちの家にも設置したい」と思う方が増え、それを実現する設計士さんのレベルも上がってきました。時代の変化を経て、階段を格好良くしたい、人に見せたいという気持ちが強くなっています。一方、昭和の時代には家に大黒柱と呼ばれる太い柱がありましたが、今はなくなっていますね。

永井:大黒柱はなぜなくなったのでしょうか?かつての家で構造上、必要とされていたのでしょうか?

廣神:昔も構造的には必要ではありませんでしたが、当時の風習や文化により「家族の証し」として存在したと思います。それが階段にとって代わってきているといえば大げさかもしれませんが、今、階段は、寒い廊下ではなくリビングの中に共存しています。お爺さんお婆さんが、子供たちが出かけたり帰ったりするのがひと目でわかるようになった。階段の存在が変わってきていると思います。

永井:それは面白いですね。家庭の象徴が、大黒柱から、階段に変わってきた今、設計する人や工務店の人には、階段の価値を高めるように考えていただきたいですね。

廣神:それは既に考えてらっしゃると思います。日々、見積依頼で図面を手にすると「自分がこの家に住んだらどういう暮らしをするんだろう」と想像するのですが、階段は機能だけではなく、見てかっこいい存在であることが容易に想像できます。家の中での存在感が増していると実感します。

階段を作るうえでの3つのポイント

永井:逆に階段を設計する人や工務店の方に向けて、木材卸売り会社だから言える、階段を作るうえでのポイントはありますか?

廣神:あります。1つ目は安全性です。上って下りて危なくない階段。2つ目が機能性です。たとえば、階段の段板の下にライトを入れて足元を照らす、階段の下のスペースを収納にするなど。3つ目は、見てかっこいいこと、つまりデザイン性です。

永井:そう考えると階段は、フローリングよりもできることが多いですね。仕事柄色々な住宅の図面をご覧になっていると思いますが、安全性については、時代の変化と共に配慮がされるようになってきていますか?

廣神:はい。例えば建築基準法では、段板の踏面(ふみづら)、一段の高さ、階段の間口の最低のサイズが決められているわけですが、「階段はゆったりと上がってほしい」という考えから、最低基準の150ミリの1.5倍くらいにしていますね。

永井:安全性はどんどん追及されていると。機能性はどうでしょうか?私の実家は階段の下が全部収納です。

廣神:機能という意味ではあまり進化していません。革新的機能はないですかね。

永井:では革新的なデザインというのはありますか?

廣神:日々見ます。ただ新しいというより「またか!」と思うようなデザインですね。

永井:流行りがあるのですね。

廣神:極端にいえば空間に浮いているような階段です。「絵にするのは簡単だけど、どうやって実現するの?」「これ人が上り下りして大丈夫なの?」「どこで支えるの?」と思わせる階段が図面に書かれたりします。デザインに走りすぎ、安全性や機能性にある程度目をつぶった階段も見受けられます。

永井:3つのバランスが重要ですね。

廣神:おっしゃる通りです。安全、機能、意匠という3つの輪があって、その3つが重なったところに東集が求める、私たちが提供すべき階段があるのではないかと思います。

永井:それらを実現するのは最終的には、図面を作る設計者と施工会社ですよね。でも私たちは(彼らに素材を提供する)サプライヤーじゃないですか。

廣神:「ここは危ないのでこうしたら?」「こう描いてありますけど、こういうこともできませんか」という口添えや、また図面に描かれたデザインを「部品」として作れる技術がサプライヤーとして必要ですね。

永井:木材卸売り会社だからこそ、図面を見て「こうしたらいいのでは」と思うことはありますか。

廣神:はい、大きく3点あります。1つ目は高さと幅の観点です。都内の分譲住宅は土地が狭いために、踏面を狭く、蹴上を高くしがちです。先ほど申し上げた最低基準に収めようとしてしまいます。しかし、安全性を考えると、そこ住む人の目線も欲しいところです。これは私の家の話ですが、階段の踏面が狭く、大人の足だとかかとが乗りません。子供を抱っこした状態でかかとが乗らない階段を上ると、膝がガクガクします。実は(建築基準法での最低基準である)150ミリだと、かかとが乗らないのです。蹴上も同じで、階段部分の面積を減らそうとすると、階段の数が減るので、おのずと蹴上の高さが増えてしまいます。この場合、高齢の方は足があがるか不安です。そのような図面をしばしば拝見します。

永井:住宅の設計は人生や年齢の変化も考慮に入れたほうが良いですね。

廣神:土地の狭い都内分譲住宅であってもできる限り階段のスペースを広く取ってあげたいです。

廣神:2つ目は強度の観点です。近年、「階段をオープンに見せたい」というニーズが増えています。最近の設計者は「蹴込板(踏板と踏板の間を垂直に取り付ける板)があるから暗くなる。蹴込板をなくせば光が通る、風が通る」という着眼点からオープンに見せる設計にしています。それも一つの方法ですが、強度を持たせるためには木に厚み、幅がどうしても必要です。蹴込板なしの階段だと、段板一枚の厚みが45ミリあったとしても大人が乗れば、しなってしまうのです。図面上に薄い板のスタイリッシュな階段の絵が描かれてくると、木材の専門業者としては「それは危ない」と感じます。このことを知らずに「蹴込板なし、段板一枚の厚み25ミリ」と指定された図面を見ると、「ちょっとひと言申しますが...」と言いたくなります。

次回「【後編】材木のプロが、ぐうの音もでなかった階段 」へ続く