【後編】材木のプロが、ぐうの音もでなかった階段

2019年12月25日

単に家の中を上り下りする「道具」から、時代を経て、家を「象徴」する存在になった階段。階段への要望も多くなり、材木のプロの目から見て、「ちょっとひと言申し上げますが...」と気になる設計図もあります。安全、機能、デザインが揃った理想の階段とは?そして、材木のプロがうなった階段とは?後半は引き続き、具体的に気をつけていきたい階段の設計におけるポイントを、東集代表 永井、東京東支店店長 廣神が紐解いていきます。

(構成・写真 渡邉奈月<ICPコンサルティング>)

【前編】「階段」の設計で外せない3つの視点」はこちらから >

クレストホールディングス株式会社 兼 株式会社東集 代表取締役社長 永井 俊輔(写真右)      (※東集における役職は取材当時のものとなります。現在の代表は望田が務めています。)

早稲田大学商学部卒。株式会社ジャフコでバイアウト投資に携わった後、父親が経営する株式会社クレストへ入社。2016年より同社代表取締役社長。2019年8月ホールディングス化。同年9月東集を完全子会社化し、東集代表取締役社長に就任。

株式会社東集 東京東営業部 部長 廣神 治(写真左)

平成6年東集入社。新木場店の研修を経て、営業として春日部営業所配属。建設現場でお客様や大工さんと打ち合わせながら家づくりにどっぷりと携わる。平成15年千葉店店長に就任。新木場店統合に伴い、第一チーム責任者兼営業。現、東京東支店店長。メンバーと東京都や千葉県エリアを中心に活動中。

鉄と木のハイブリッドで強度をあげる

永井:実際に工務店に助言することはありますか?

廣神:あります。「図面では25ミリとありましたが、見積もりは最低限36ミリで見ました。こういう理由です」などとお伝えします。設計者もスタイリッシュな階段にしたかったはずなのに、木を使った場合に施主の言う通りに図面を描き直すとゴツくなるので悩みどころかもしれませんね。そこで今、階段のアイテムとして浸透しているのが、鉄の階段です。断面の寸法が同じ場合は、木よりも鉄の方が断然強度が高いわけです。つまり段板が薄くても木なら実現不可能なものが鉄なら可能になるメリットがあるります。設計者が段板を薄くするのは鉄の階段をイメージしているからです。一方、施主様が木の階段を求めた場合は薄くて弱い階段になります。この解決策は、鉄と木のハイブリッドです。例えば、ささら(階段の両側に走る斜めの板材)は鉄で強固にしながら黒く塗るなどスタイリッシュに見せて、段板は白い木で見せる方法があります。

永井:いままでコスト的に難しかったのか、技術的に難しかったのかわかりませんが、階段についていろいろアイデアが出てくるのは良いですね。

廣神:はい。鉄を扱う会社様とはコラボして、お互いの知見を出しあい、施主様にとってよりよい素材を生み出していきたいと考えています。もし鉄材を扱う業者様がこのブログをご覧になっていたら、ご連絡いただければと思います。

廣神:あと階段を設計するうえで気をつけたい3つ目の観点は、集成材でも反ったり割れたりする点です。例えば、踊り場を集成材で作ることを考えてみましょう。いわゆる鉄砲階段(直線的な階段)を作ろうとすると、役所からは「途中で踊り場を設けなさい」と指摘されます。転げ落ちでも踊り場で止まるという、安全性の観点が理由です。この踊り場を集成材で作るとき、集成材を構成している一本のラミナー(小角材のピース)は3センチくらいなのですが、もしそれが0.5ミリ縮んだらどうなるでしょう。90センチある踊り場だとすると、ラミナー30本なので0.5×30=15ミリ縮む。それだけ縮んでしまうと木が悲鳴を上げて割れたりひびが入ったりしてしまいます。(人工の)集成材は自然の木材と比べると収縮率は小さいのですが、それでも使用法や環境によっては割れやひびが入るのを防げないこともある。これを回避するポイントは「階段は家の内部に作る」ということです。これまで家の端に存在していた階段ですが、家の外壁に近いということは家の外と中の温度差のために湿気の影響を受けやすいのです。

永井:つまり家の内部にあったほうが伸縮のリスクが少ないのですね。結局、設計するときの機能とのバランスですね。それでも壁際が良いこともあるし、家の内部にあったら邪魔になることもありますよね。 

廣神:壁際に作る場合は、できる限り集成材の裏も塗装してはどうでしょうか。表だけ塗装しても裏から高温多湿の影響を受けますから。

永井:裏を塗装しない施工業者がありますか?

廣神:あります。「手間がかかるし、時間がないから(裏面を塗らない)」と施工を進めてしまうケースです。住宅建築に関わる全ての人が一丸となって同じ方向を向いて一軒の良い家を作ろうとするのがあるべき姿なのですが・・・。施工段階ではなく、工場で段板を表裏塗装してから納品すればこの事態は防げると考えます。

材木のプロが考える階段の未来

永井:反ったり、割れたりするリスクというと、無垢材を扱う難しさが思い浮かびます。

廣神:集成材と無垢材の違いを説明しますと、集成材は先ほど言ったラミナーという1本3センチほどの木材を積み木のように重なって1枚の板を構成しています。無垢材というのは1本の木から切り出した1枚の板のことです。無垢材は反ったり割れたりするリスクは高いのですが、条件さえ合えば積極的に無垢材を使っても良いのではないかと考えます。無垢材は面積が広い板だとそれだけ高価になりますし、材料によっては希望する数の板が取れないこともあります。しかし、東集は無垢板を貼り合わせて1枚の板にする技術があります。

永井:無垢材を貼り合わせる技術とは具体的にどんなものでしょうか?

廣神:2枚、あるいは3枚のむ無垢板を貼り合わせています。複数の細い木材を貼り合わせた集成材とは違い見た目は無垢材そのものです。

永井:他に階段の設計で、何か気をつけるべきことはありますでしょうか?

廣神:先ほど家の内部にある階段の話が出ましたが、デメリットもあります。階段があるということは、もちろん2階まで天井がありませんので、そのスペースから熱が逃げてしまい、代わりに冷たい空気が上から降りてきてしまう。一家のだんらんができる反面、家の熱効率が下がるわけです。空気の流れを何か設備で変える必要があります。

永井:例えば、シーリングファンとか。そういうことを全体で考えたうえで設計の人は階段を考えてほしいということですね。

廣神:もちろん、ここまで話したことは設計者もご存知かと思いますが、その時に木をどのように使ったら良いかと考えたときには、我々がお手伝いできます。

構成:熟練の設計者が作る階段というのは、どんなものなのでしょうか。

廣神:うまく表現できませんが、安全、機能、意匠のバランスが素晴らしく、ぐうの音も出ないことはあります。目から鱗だったのは「このスペースに収めるような最低限の階段を設計する」ではなく、逆に「スペースにこだわらない。『上りやすい階段』を確保する」と。その結果、階段が部屋の内部に出っ張っているのですが、部屋のアクセントのようなデザインで違和感がない。「あ、これはすごい。やるなあこの人」と思いました。固定観念にとらわれないのです。

永井:私たち東集としてもベストな階段が作られるお手伝いをしていきたいですね。

廣神:はい。「安全で、使いやすく、かっこいい階段」をお手伝いしたいです。ただ施主様に買ってもらうだけではなくて、喜んでいただけるものをと思っています。 

永井:世の中には多くの木材を扱う会社さんがあります。ブログの読者の皆様には、こういう顔の人たちが「言われたものを納品する」以上に、木拾い(使用する木の種類、寸法、数量などを、図面から割り出す作業)して「この部分にはこれを使えばいいのにな」と日々頭をめぐらせながら仕事をやり込んでいることを、少しでも知っていただけたらとてもありがたいことです。私たち、新しい東集も「より顧客に寄り添いたい」という気持ちを持っております。

廣神:「早く納品する、安く納品する、確実に納品する」という点で評価していただいて現在に至っていますが、さらに「もっとお客様に喜んでいただきたい」という欲を出すようになりました

永井:私たち東集は木材販売店さんや工務店がお客様ですが、私たちもその先の施主様へ目線を向けているのは同じです。人の居住する空間を作り上げる仕事という意味では、本当に夢があり、人を幸せにできる仕事なのでしょうね。住宅着工件数が減少していますが、私のイメージでは建売住宅の数は増えているように思えます。その点についてはどう思われますか。

廣神:建売住宅は、建設会社が建てていかないと会社が回らないから建てているという面もあるかもしれません。いまは関東圏の住宅着工件数は増えていますが、10年、20年後はその関東でさえ高齢化しておのずとその数は減るでしょう。

永井:そういう施主様たちに喜んでいただける家を作るべく、今後も頑張ってまいりましょう。


< People> 

平成6年に東集に入社。新社会人として、「住宅に携わる」ことを漠然とですが夢をもっておりました。

1年間新木場店での現場研修を経て、その後春日部営業所へ転勤。そこで営業としての経験を積みます。建築現場での打ち合わせを通じて、「住宅を造る一端に居るなぁ」と実感する日々でした。納まりが上手くいった時や、大工さんに褒められた時には、やりがいを感じました。一方、クレームを頂戴した際は、何度もくじけそうになりました。

平成15年に千葉店で店長に就任します。このとき、東集の経営理念を考えるプロジェクトのメンバーに加えて頂き、社に対する意識が大きく変革した契機となりました。 千葉店が新木場店と統合され「第一チームの責任者」となりました。社としても、苦境のさなか、以後営業兼任として邁進しました。 その後、社は支店体制に戻り、東京東支店の店長を拝命します。

現在は、東京東支店のメンバーと東京都や千葉県エリアを中心に活動中です。紆余屈折しつつ、支店のメンバーとともにこの業界を支えています。